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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)8986号 判決

原告

丹後浩和

ほか一名

被告

浅田廣

ほか一名

主文

一  被告浅田廣は、原告丹後浩和に対し、金四二三万五九八五円及びこれに対する平成元年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告浅田廣は、原告さくらタクシー株式会社に対し、金四八万一九五〇円及びこれに対する平成元年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告日本冷食株式会社に対する請求、原告らの被告浅田廣に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告丹後浩和と被告浅田廣との間に生じたものは、これを五分し、その一を被告浅田廣の負担とし、その余を原告丹後浩和の負担とし、原告さくらタクシー株式会社と被告浅田廣との間に生じたものは被告浅田廣の負担とし、原告らと被告日本冷食株式会社との間に生じたものは原告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告丹後浩和に対し、各自金二二一二万二一二四円及びこれに対する平成元年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告さくらタクシー株式会社に対し、各自金四八万一九五〇円及びこれに対する平成元年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二案の概要

本件は、追突事故により受傷した被追突車両の運転者である原告丹後浩和(以下「原告丹後」という。)が、追突車両の運転者である被告浅田廣(以下「被告浅田」という。)に対し民法七〇九条に基づき、被告日本冷食株式会社(以下「被告日本冷食」という。)に対し、同社が被告浅田の使用者であり、追突車両の保有者であるとして民法七一五条、自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償請求(一部請求)するとともに、被追突車両の所有者である原告さくらタクシー株式会社(以下「原告さくらタクシー」という。)が、右車両の損害について被告浅田廣に対し民法七〇九条に基づき、被告日本冷食に対し民法七一五条に基づき、それぞれ損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生(原告らと被告浅田との間では争いがなく、被告日本冷食との間では甲一、弁論の全趣旨により認められる。

(1) 発生日時 平成元年六月一八日午前一時二四分ころ

(2) 発生場所 大阪市西淀川区柏里三丁目一六番一号先路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 被告浅田運転の普通貨物自動車(神戸八八は九〇三四、以下「被告車」という。)

(4) 被害車両 原告丹後が原告さくらタクシーの業務のため運転していた同会社所有の普通乗用自動車(タクシー、なにわ五五い二八三八、以下「原告車」という。)

(5) 事故態様 追突

2  被告浅田の責任(原告ら及び被告浅田間では争いがない。)本件事故は、被告浅田の過失により発生したものであるから、同人は民法七〇九条に基づき本件事故による原告らの損害につき賠償責任を負う。

3  損益相殺

原告丹後は、自倍責保険から七五万円、労災保険から休業補償給付として一二八万六七五一円、後遺障害補償として一二九万七八六四円の支払を受けた。なお、療養補償給付として八〇万二七三四円の支払も受けているが、原告浅田は治療費については請求していないので損益相殺の対象とはならない。

二  争点

1  被告日本冷食の責任

(1) 原告ら

被告車は、被告浅田所有ではあるが、冷凍機器・冷凍食品の製造販売等を目的とする会社である被告日本冷食が、右被告車を右商品の輸送等、自己のために運行の用に供していたものであり、また、自己の従業員である被告浅田が業務遂行中、過失によつて本件事故を惹起したものであるから、民法七一五条、自賠法三条に基づき、被告日本冷食は原告らに損害賠償義務を負う。

(2) 被告日本冷食

被告浅田は、被告日本冷食の従業員ではなく、同人との間に運送委託契約関係が存したにすぎず、また、本件事故も被告日本冷食の荷物運送中に発生したものでもないから、右責任は否認する。

2  過失相殺

(1) 被告浅田

本件事故は、被告浅田が片側二車線道路の右側車線を概ね制限速度程度のスピードで進行中、原告車が時速八〇キロメートル近い速度で左側車線から追い越して行き、右側車線へ入つたのち、横断中の犬をはね、事故処理もせず、逃走しようとしたので、被告浅田がこれを注意しようと少し速度を上げて追従したところ、原告車が急停止したため、直前に気付いた被告浅田の急ブレーキも及ばず追突したというものであり、被告丹後の追越車線で正当な理由もなく急停止した過失は重大で、少なくとも七割の過失相殺がなされるべきである。

(2) 原告ら

原告丹後には速度違反、犬をはねながら事故処理をせず逃走しようとした事実はない。本件事故は、原告丹後が本件事故現場付近を走行中、犬が飛び出してきたため、停止しようとしたところ、原告車に追従していた被告車の運転者被告浅田が原告車の動静を注視し、同車との安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、道路右側の犬を見るのに気を取られ、右注意義務を怠つたため発生したもので、過失相殺をすべきでない。

3  原告丹後の受傷程度、相当治療期間

(1) 原告丹後

原告丹後は、本件事故により、頸椎捻挫・右肩右背部挫傷・腰部捻挫・腰椎椎間板症(根症状伴う)・腰部椎間板ヘルニアの傷害を受け、平成元年六月一八日から平成二年四月二五日まで、日生病院での平成元年九月二〇日から同月三〇日までの入院のほか、松本病院、河村病院、日生病院、大阪厚生年金病院に通院し、平成二年四月二五日症状が固定した。

(2) 被告浅田

原告丹後が本件事故により受傷したか疑問であり、とくに椎間板ヘルニアは本件事故によるものではなく、仮に何らかの受傷が認められるとしても、若干の期間の通院治療で充分であつたはずであり、一〇か月以上の通院の必要性はなかつたし、まして、入院の必要性などなかつた。また、四か所の病院を転々とする必要もなかつた。

4  原告丹後の後遺障害の程度

原告丹後は、本件事故による後遺障害について、労働基準監督署より後遺障害等級一二級との認定を受けたものであるから、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表第一二級の後遺障害を認めるべきであると主張するのに対し、被告浅田は後遺障害は認められないと争う。

5  損害額

第三争点に対する判断

一  被告日本冷食の責任

被告車が被告浅田の所有であることは当事者間に争いがなく、証拠(甲五の5、乙一、被告浅田本人)によれば、被告浅田は、運送業を自営し、被告日本冷食と月極三五万円の運送賃を受取り、同社の荷物の配達を請け負つていたこと、ガソリン代、修理費は被告浅田の負担であつたことが認められ、他に被告日本冷食が被告浅田の惹起した本件事故について使用者責任を認めるに足りる事実、また、被告日本冷食が被告車を自己のために運行の用に供していたと認めるに足りる事実は認められないから、原告らの主張は理由がない。

二  過失相殺

1  証拠(甲五の1ないし9、検甲四の1ないし3、原告丹後本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東西にのびる制限速度時速五〇キロメートルの片側各二車線のアスフアルト舗装のされた平坦な道路の中央寄車線上である。本件事故当時、付近は街路灯のため薄明るく、路面は乾燥し、交通量は閑散としていた。

(2) 被告浅田は、被告車を運転し、時速約五〇キロメートルで中央寄車線を原告車に追従して西進中、原告車が右側から飛び出してきた犬を発見し、ブレーキをかけて減速したのを、約四二メートル前方に発見し、時速約四〇キロメートルに減速した。その後、被告浅田は約三七・五メートル進行して右前方七メートル先の犬に気を奪われ、前方注視を欠いて、さらに約一九メートル進行したため、右犬と右前角付近が接触し(原告車右前角スカート部に毛様物が付着していたことから明らか。)、停止間近の原告車を前方約一二メートル先に再度気付き、急ブレーキをかけたが及ばず、約一二メートル進行して原告車に追突した。追突後、被告車は二・八メートル進行して停止し、原告車は五メートル押し出されて停止した。追突時、原告車は、乗客を乗せていたため、乗客が前のめりにならないよう停止直前で一旦ブレーキを緩めていた。

(3) なお、本件事故現場には、衝突地点手前から被告車右前輪による七メートル、左前輪による六・九メートルのスリツプ痕が印象されていた。また、右事故により、原告車には後部バンパー、フエンダー部凹損の、被告車に前部凹損の損傷が生じた。

以上の事実が認められる。

右認定に反する被告浅田の本人尋問における「原告車が右後輪で犬をはね、一旦ブレーキランプがついたがその後もかなりの速度で走つていき、しばらくしてから停止していた」旨の供述部分などは、被告浅田の捜査時の供述調書の記載部分、実況見分における同人の指示説明記載部分と異なるところ、捜査時と供述が異なることについての合理的説明がなく、また、事故態様として不自然というほかなく採用できない。

2  右事実によれば、被告浅田が原告車が減速したことに気付いたのち、前方注視を怠らなければ、本件事故は容易に避けられたというべきであり、原告丹後に理由なく停止した落ち度は認められず、過失相殺をすることは相当でない。

三  原告丹後の受傷内容、相当治療期間(症状固定時期)

1  前記認定の事故状況に加え、証拠(甲二の1ないし4、五の6ないし9、八の1ないし13、九の1ないし11、一〇の1ないし39、一一の1ないし21、一二)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 追突直前、原告丹後は乗客が前のめりにならないようにブレーキを緩め、乗客にブレーキをかけたことを謝るため、左後方を向いていたところ、後方からドーンという音とともに前に押し出され、強い衝撃を受け、体が前後に揺すぶられて受傷し、事故直後気分が悪くなり現場で吐くなどした。

原告車後部座席に客として同乗していた奥田公子もかなり強い衝撃を受け、前のめりになり、頭が前後にふられる恰好で首筋に痛みが走り、受傷したが、五日間の通院加療を要する頸椎捻挫と診断された(なお、奥田公子の平成五年四月五日付の被告浅田の訴訟代理人への手紙(丙一の1、2)には原告丹後は追突時後方を向いていなかつた、また、それほどの衝撃も受けてない等、右認定に反する記載部分があるが、右手紙は本件事故後四年を経て書かれているものであり、その記憶の正確性に疑問もあるうえ、本件事故当時の供述調書(甲五の7)の記載内容が虚偽の事実であるとする合理的説明もなく、採用しえない。)。

(2) 本件事故当日、原告丹後は、頭痛、項部痛、悪心を認め、松本病院に赴き、外傷性頸部症候郡、腰部挫傷で平成元年六月一八日から約七日間休業加療を要する見込と診断された。また、当日腰も捩じつたみたいで痛いとも訴えたが、両上肢の知覚障害、運動障害には異常は認められず、頸部レントゲン写真も異常が認められなかつた。翌一九日の診察では、右肩甲部の痛みを訴えた。その後、原告丹後の自宅に近い河村病院に転医した。

(3) 同月二〇日に河村病院で受診したが、その時には、意識正常、悪心・立ちくらみがやや認められる。右項部から右肩への凝り、圧痛、右傍脊柱筋・右棘上筋圧痛が認められ、スパーリングテスト、ジヤクソンテストはいずれも疑陽性であつたが、頸、肩の可動域には制限がなく、上肢の腱反射には異常はなく、ホフマン・ワルテンベルグテストも陰性で、知覚・運動麻痺も認められなかつた。また、腰部については可動域が屈曲の際疼痛のため制限され、指床距離が一五センチメートルであり、左伸展下肢挙上テストは六〇度で陽性、プラカード徴候は左が陽性であつたが、膝蓋腱反射・アキレス腱反射は異常なく、知覚・運動麻痺も認められなかつた。レントゲン検査では、頸椎、右肩には異常はなかつたが、第四・第五腰椎椎間に不安定性が認められた。その上で、頸椎捻挫、右肩右背部挫傷、腰部捻挫、腰椎椎間板症(根症状を伴う)と診断された。同病院では、理学療法、腰部硬膜外注入による治療がなされ、その後、項部痛は軽減し、同月二七日には腰痛も軽減し、左伸展下肢挙上テストは七〇度で陽性となり、同年八月三日には腰痛は持続していたが、指床距離は五センチメートル、左伸展下肢挙上テストでは八〇度で異常は認められなくなり、そろそろ就労する話もでた。

しかしながら、親族の不幸で帰省したため二八日間治療が中断した後、同月三一日にはやや悪化し、左伸展下肢挙上テストでは六〇度で陽性となり、指床距離は一〇センチメートルとなつたが、硬膜外注射で症状が軽減するので同月九月八日からは就労することにしたが、原告さくらタクシーが半日就労は認めないとのことで就労しえなかつた。

同月一三日夜にくしやみをしたため腰痛が増悪し、左伸展下肢挙上テストでは三〇度で陽性となつた。同病院ではミエログラフイーによる造影検査を予定したが、同月一八日、原告丹後は、原告さくらタクシーの担当者と相談し、日生病院に入院することとした。河村病院への実通院日数は三八日であつた。

(4) 日生病院には、河村病院に通院中の同年七月一八日受診し、腰部痛を訴え、左下肢挙上試験が陽性であつたため、腰部捻挫と診断されていたが、同年九月二〇日から同月三〇日まで入院し、その後、理学療法による通院治療をした。

入院時の諸検査では左下肢挙上試験陽性、左下肢筋力低下、左下腿知覚鈍麻、ミエログラフイーでの第五腰椎・第一仙椎椎間左のヘルニアが認められた。

その後の治療で同年一〇月一七日には左下肢挙上試験では四五度で陽性となり、運動療法によりスポーツを開始、その後六〇度で陽性となり、平成二年二月一日から仕事を再開したが一〇日程度で、下肢痛が増悪したので、就労困難となり休業した。しかし、症状は一進一退で、同月一五日に医師から手術を勧められたが、原告丹後はこれを断り、同月二二日を最後に大阪厚生年金病院に転医した。日生病院退院後の実通院日数は三〇日であつた。

(5) 大阪厚生年金病院で平成二年二月二七日に受診し、左伸展下肢挙上試験は六〇度で陽性、左下肢の知覚鈍麻を訴えた。その後も左下肢痛、臀部痛を訴えたが、同病院の医師による手術の勧めには応ぜず、同年四月二五日をもつて症状固定となつた。同病院への実通院日数は六日であつた。

(6) 右病院の太田信彦医師は、平成二年五月一五日付の後遺障害診断書において、傷病名として「腰部椎間板ヘルニア」、自覚症状として「左下肢痛、腰痛」、他覚症状として「白血球増加、左下肢の筋力低下、知覚障害、MRIで腰椎椎間板ヘルニア」、脊柱の運動障害について「前屈二〇度、後屈一〇度、左右屈いずれも一〇度、左右回旋いずれも三〇度」と診断のうえ、症状は平成二年四月二五日固定したとしたが、その際、事故との関連については「事故後、症状が出現しており、何らかの因果関係はあると考えるが、証明はできない。将来手術が必要となる可能性もある。」との所見を示している。

(7) 右入通院期間を通じ、各病院の医師は療養のため労働ができなかつたとの所見を示した。

(8) 原告丹後は、平成三年六月ころ原告さくらタクシーを辞め、その後は無職である。

2  前記認定の事故態様から認められる本件事故の衝撃の程度に加え、追突時の原告丹後の姿勢、事故後から程なく認められる左下肢伸展挙上試験陽性等の症状、その治療経過、腰椎椎間板の損傷高位、原告丹後の年齢、本件事故前には何らかかる症状は認められなかつたことなどの事実によると、原告丹後は本件事故により椎間板ヘルニアを発症したものと認められ、不相当に長期の治療を受けたとは認められないが、日生病院の医師が保存的治療では改善が見込めないとして、手術を勧めた平成二年二月一五日から、前記後遺障害診断書の症状固定までの間症状が改善したとも認められないので、右二月一五日をもつて症状が固定したと認めるのが相当である。

四  原告丹後の後遺障害の有無・程度

前記認定の事実によると、原告丹後の後遺障害の程度は、他覚的所見に裏付けられた頑固な神経症状が残存しているものであるから自賠法施行令二条別表後遺障害等級表第一二級一二号に該当すると認めるのが相当である。

五  原告丹後の損害額(以下、各費目の括弧内は原告丹後主張額)

1  休業損害(四七七万一六二二円) 一一二万九二〇一円

証拠(甲七の1ないし3、一三、原告丹後本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告丹後は、昭和五七年三月短期大学(自動車工学科)を卒業し、同年四月から大阪市内の重機関係の会社にフオークリストの整備士として就職したが、同社の高石市移転に伴い、翌五八年八月ころ退職した。その後はスナツクや本のレンタルシヨツプ等の経営をするなどしたが、それも平成元年一月には止め、同年四月二一日ころから原告さくらタクシーにタクシー運転手として勤務していた。本件事故当時二八歳(昭和三六年三月二五日生)であつた。

原告丹後は本件事故による受傷のため前記認定のとおり症状固定の平成二年二月一五日までの二四三日間は就労することが困難であつた。

(2) 原告丹後の平成元年五月の給与は三一万六六七三円、翌六月が二一万二一六〇円であつたが、原告丹後主張のとおり年間五五八万二一八六円の収入を得られたかについては、給与が歩合給を含んでいること、また、原告丹後が勤務して間もなく、同人の経歴等からタクシー運転手として稼働し続けるか疑問もあり、右収入を得られる蓋然性はない。

以上の事実が認められ、右によれば、平成元年賃金センサス第一巻第一表男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計、二五ないし二九歳の年平均給与三六二万八九〇〇円を基礎として休業損害を算定するのが相当であり、これによると、原告丹後の休業損害は、二四一万五九五二円となる。しかしながら、労災保険から休業補償給付として一二八万六七五一円が支給されているは当事者間に争いがないからこれを控除すると、一一二万九二〇一円となる。

(計算式)3,628,900÷365×243=2,415,952(小数点以下切り捨て、以下同様)

2  通院慰謝料(一〇〇万円) 八〇万円

本件事故による原告丹後の傷害の部位、程度、通院期間、実通院日数、原告丹後の生活状況等を総合勘案すると慰謝料として八〇万円が相当である。

3  逸失利益(一六三八万八一八一円) 八二万六七八四円

前記認定によると、原告丹後には一二級程度の神経症状を主とする後遺障害が残つたことが認められ、原告丹後の症状、手術による改善の可能性も見込めることなどの諸事情も考慮すると、症状固定後五年間一四パーセント程度労働能力を喪失したと認めるのが相当である。前記年間給与を基礎に逸失利益の現価を算定すると、二一二万四六四八円となるところ、労災保険から後遺障害補償として一二九万七八六四円が支給されているので、これを控除すると、八二万六七八四円となる。

(計算式)3,628,900×0.14×(5.134-0.952)=2,124,648

4  後遺障害慰謝料(二四〇万円) 一八八万円

前記認定の後遺障害の程度などの諸事情によれば、一八八万円が相当である。

5  小計

以上によれば、原告丹後の本件事故による損害額(弁護士費用を除く。)は四六三万五九八五円となり、自賠責保険から支給された七五万円を控除すると、三八八万五九八五円となる。

6  弁護士費用(一五〇万円) 三五万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は三五万円と認めるのが相当である。

六  原告さくらタクシーの損害額(主張額―修理費三八万六九五〇円、休車損四万五〇〇〇円、弁護士費用五万円)

証拠(甲四、五の4、6、原告丹後本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により、後部バンパー、フエンダー凹損等の損傷を受け、修理費として三八万六九五〇円を要し、また、修理期間として五日を要し、原告車両をその間タクシー業務に使用できず、一日当たり九〇〇〇円合計四万五〇〇〇円の営業利益を喪失した。

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は五万円と認めるのが相当である。

七  まとめ

以上によると、原告丹後の本訴請求は、被告浅田に対し、金四二三万五九八五円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成元年六月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、原告さくらタクシーの本訴請求は、被告浅田に対し、金四八万一九五〇円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成元年六月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、それぞれ理由があり、原告らの被告浅田に対するその余の請求、被告日本冷食に対する請求はいずれも理由がない。

(裁判官 高野裕)

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